震災後1日目

なんとなく、こんなことって人生でそう何度も起こることではないので、記録のために書いておきます。今後二度と同じようなことは遭遇しないと思うんだけれど、書いておかないと絶対に思い出せないと思うので。あらかじめ言っておくと、僕の正直な気持ちを全部書いていますが、別に誰かを批判したいわけではありません。

家に帰って

震災が起こって、交通機関はマヒしながらも0時半ぐらいに帰宅した。家に帰れなくなった後輩を泊めた。せっかくなので、近所に住んでる別の後輩と、僕らは3人で夜を過ごした。NHKの速報をチラ見しながら、「やっべー、これやっべー」と地獄のミサワみたいな単純な感想しか出てこなかった。どんな気分で見ていたか思い出せない。しかし、僕らはすぐに同じ津波シーンに見飽きてしまって、AKB48のプロモを見始めた。AKB48で誰がかわいいだの、誰かかわいいだの、というか誰がかわいいだの、そればっか言っていたように思う。AKBは偉大だ。ポニーテールとシュシュを見ながら、いつのまにか寝ていた。最後に時計を見たのは3時半。後輩の歯ぎしりがうるさかった。

朝起きて

7時に起きた。誰が起こすともなく、みんな起きた。平日より早く起きてる。お腹が減ったので家の近くの吉野家に朝御飯を食べに行った。めちゃくちゃ混んでいた。おいおい、朝7時だぞ、そわそわしすぎだろお前ら、と思いながら、オーダを取られるまでに10分はかかった。僕の隣の人はなかなかオーダを取りに来てもらえず。不快感を露にしながら時折舌打ちをしていた。僕は、本当は焼魚定食が食べたかったが、明らかに店員がめんどくさいオーダだと思い、隣の後輩と同じ牛鍋丼と卵を頼んだ。もう一人の後輩は牛丼大盛りを頼んだ。朝からやるなー。

店を出たのが7時30分ぐらい。店の外に行列が出来ていた。初めて吉野家で並んでいるのを見た。

一人の後輩は、自転車で自分の家に帰っていった。もう一人の後輩は、まだ電車が動いておらず、仕方なく二人でまた僕の家に帰り、また寝た。

昼になって

起きた。13時だった。シャワーを浴びた。後輩は、まだ電車が動いていないが最寄り駅まで行くといって、家を出た。僕は何もやっていないのにお腹が減って、タコ焼きを食べた。スーパーで水を買って帰った。空を見上げると、めちゃくちゃ綺麗な青空だった。素敵な土曜日に見えた。駅前ではカップルが手をつないで歩いていた。でも家についてテレビをつけると、昨晩から変わらない、全然素敵じゃないニュースが流れている。

昨日の夜から、ずっとiPhone上でTwitterとBelugaを交互に見ながら過ごしていた。朝起きたら、Twitterのテンションがみんな昨日とちょっと違ったのが印象的だった。昨日はずっと交通情報のオンパレードだった。そう、今思うと不思議なことに、「どうやって家に帰れるか」が主要テーマだったように思う。自分がそういう立場だからか、あまり地震の被害規模とか考えていなかった。実際、昨日の都内の交通はひどかった。JRは地震後、終日運転を再開できなかった。夜になって、地下鉄や私鉄が少しずつ動き始めたが、それも直前になるまで予定が分からなかった。後輩は品川でタクシーを3時間以上待った。その待ったタクシーから通常30分の道を帰るのに、渋滞でまた3時間以上かかった。歩いて家まで何時間もかけた人もいた。泊まるにしても、ホテル、漫画喫茶、カラオケはいっぱいだったようだ。そんな中、家がない人に寝る場所を解放するホテルのラウンジ、企業、イベント施設などの情報のまとめが駆け巡った。
今日は違った。朝から地震の被害のことが、とめどなくタイムラインを埋め尽くした。「津波がやばい」「火事がすごい」「原発が爆発した」「工場が爆発した」「被曝するかも」「変な雨が降るかも」「節電しろ、停電になるぞ」。
みんな有益な情報を少しでも流そうと必死だった。だけれども、デマを流してしまう人がいたり、非公式RTで古い情報を流している人が、なんかすごい怒られていた。みんな、何かと戦っているような感じだった。Twitter上だと、ITに明るい人が英雄的行動をとっていた。ホリエモンはいろんな情報をRTしていた。グルーポンはいち早くおもしろ募金を呼びかけていた。被災地への有益な情報がまとめられた。井上雄彦は元気になるイラストを書き続けた。

ときどき来る余震に、みんな怯えていた。

Belugaはかなり便利だった。一日中外に出ないほうがいいと言われ、家の近所でうろうろしていた暇な僕にとって、話し相手はBelugaの向こうにいる友だちだった。正直な話、僕はあんまり一人でも不安を感じていなかったし、別に怖くはなかった。放射能汚染も別に東京まで来ないだろうな、という気がしていた。別に大丈夫という根拠はなく、ただ実感がなかったんだ。
しかし、それでも何もすることがない一人の部屋にいるのは、なかなかにストレスがたまった。これを機になんかやることやろうかとも思ったが、そういう気分ではなかった。放っておくと、ひたすらNHKを見続けてしまう。そんな中、誰かと馬鹿話をできるのは楽しかった。「飯食って歯磨いてオナニーして寝よう!」とかつぶやいていた友達がいた。笑った。僕は、こういうのがいいと思う。僕は食べたものをつぶやき、友達は洗濯をすましておくと言った。別の友達は風呂に入ると言った。十数人で、僕らはリアルタイムでつながっていた。昨日からずっとだ。

夜になって

こんなときこそカレーでも作ろうと思い、夕方スーパーに行った。冷凍食品が売り切れていた。水も売り切れていた。惣菜は全部無かった。カレーの材料は売っていた。吉野家松屋は材料がなくなって閉店した。

カレーを作りながら、テレビをつけた。朝の話題は津波だったが、夕方以降は原発で持ちきりだった。もし福島から放射能汚染が起こったら、東京まで届くのか?とりあえずカレーが出来るまでは何も起こらないといいなぁと思ったら、どうにか今まで無事だった。

暖房を切った。今日一日は節電。

そういえば、僕の祖母と叔母さん二人が仙台に住んでいた。昨日からずっと連絡が取れていなかった。友達も二人仙台に住んでいたが、一人しか連絡が取れていなかった。でも、僕はあんまり心配していなかった。きっと大丈夫だと思っていた。今でもそう思っている。

Twitterを眺めていると、いろいろな人の考えが流れこんできておもしろかった。朝よりも、どんどんカオスになっている。具体的には、みんな少しでもいいことをしようと必死になっている感じがした。僕はその理由がなんとなくわかる。みんな不安なんだろう。少しでも苦しんでいる人の役に立っていないと不安なんだ。自分だけが幸せでいることは許されないのだ。
もうちょっと気楽になればいいのになーと思った。他の、Twitter使っていない人はどうなんだろう?そういえば、僕の東京の友達で蜜に連絡を取ったひとはTwitterの人ばっかりなので、普通の人がどういう気分でどのように過ごしているのかが分からなかった。でも、Twitterはちょっと必死すぎると思った。あそこにいると、「みんなが頑張っているんだから、俺も頑張らなきゃ!」が見えすぎると思う。おまけに、アホツイートをすると非国民と言われそうで、ちょっと怖かった。僕は、おっぱいおっぱい言ってもいいと思う。
あと、善意の押し付けは嫌だ。地震にこの土日のすべてを捧げなきゃって考えも嫌だ。残念ながら、or 幸運なことに、地震で大きな被害にあってなくて普通の生活が送れる人もいる。別にその人が無理をする必要なんてない。別に無理をする必要がないのに無理をしている人を見るのは、まるで自分の仕事は終わっているのに、上司が残業しているから気まずくて帰れない状況を思い出させた。

蓮舫が叩かれていた。政治家が叩かれていた。マスメディアが叩かれていた。みんな誰かのちょっとしたミスとか言葉尻に神経質になっているけど、こんなときに完璧な振る舞いなんてできないし、地震が起こったのは誰のせいでもないのだから、責任問題なんて後からやればいいと思う。誰もこの自体で悪意なんて持ってないし、今は必死で精一杯やってくれているんだと僕は思っている。

僕は明日も普通に日曜日を送る。明日は誰にでも優しく接しようと思う。pay forwardって映画が好きだ。僕は残念ながら被災地の人に出来るのは、ほとんど募金ぐらいしかないけれど、大量に募金できるほどお金持ちではない。なので、善意の連鎖がつながったらいいと思う。僕は東北に言って力になってあげることはできないので、これからしばらくの間優しい人間であろうと思う。っていうロマンチズム。

友達が、今からユーストで音楽流しに行ってくる!とメッセージを送ってきた。午前0時。そういうの、いいと思う。すごくいいと思う。今日は土曜日だ。いい音楽ぐらい聴いて、夜を過ごさなければならない。